暗幕のゲルニカは史実よりも面白い?

 

ピカソ ゲルニカ

 

 

事実は小説より奇なり。

 

 

という言葉がありますが、事実は小説よりも不思議だと思う人もいれば、小説のほうが現実よりも奇だと思う人もいるでしょう。

 

 

どちらが正しいかは人それぞれであり絶対的な正解はありませんが、僕は事実のほうが小説よりも奇だと思っています。

 

 

なぜかというと、事実は論理だけでは成り立っていないからです。

 

 

 

「嘘みたいな本当の話」を嘘だと思い、「本当のような嘘の話」を本当だと思ってしまうことはよくありますが、後者の話の中に小説も含まれていると僕は思います。

 

 

小説は一部を除いて著者が考えた架空の話ですので現実に起こったことではありません。

 

 

僕達が小説読んで面白いと感じることができるのは、どんなに設定が現実と異なっていたとしても論理が整っていなければならない。

 

 

SFのようなジャンルですべての設定が現在の僕達からすると考えられない状況の物語だとしても、その世界ではそれが当たり前なんだろうなと納得できなければ読み進めようとは思わないはずです。

 

 

小説に限らず文字を含めた言葉とは、論理的でなければ僕たちは理解できません。

 

 

その論理が在り得ないと思えばつまらないし、そういう世界もあるんだろうなと納得できれば面白い。

 

 

しかし、現実の世界は小説と違って論理では割り切れないことが起こりえます。

 

 

例えば、なぜピカソがゲルニカを書いたのかはピカソにしか判らない。

 

 

ピカソがゲルニカを書いたのは「平和・反戦を訴える」ためと言われています。

 

 

たぶん、ピカソは平和や反戦のためにゲルニカを書いたのでしょう。

 

 

ゲルニカが攻撃された後に書いたのですから、戦争の悲惨さや人間の愚かさをアートにすることで反戦・平和を訴えたかったのでしょうが、もしかしたら全然違う目的で書かれたのかもしれない。

 

 

その答えを原田マハさんは「暗幕のゲルニカ」の中で、実に印象的なナチス高官とピカソの会話の中で印象的な言葉を用いて描いています。

 

 

多分、このやりとりは著者の想像でしょうが、本当にこんなやりとりがあったに違いないという説得力があります。

 

 

これが僕が考えるこの本の魅力の1つ。

 

 

史実をベースにした物語だからこそ描ける実在の人物が歴史上語り得なかったことを論理によって導き出す「本当のような嘘の話」です。

 

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暗幕のゲルニカあらすじ

ピカソ ゲルニカあらすじ

 

ところで、絵というのは不思議なものですよね。

 

 

いくら著者がこの絵は反戦・平和を願って書いたものだと説明されても、その絵から何を感じるのかは見た人次第です。

 

 

僕はピカソのことは何も知らないので、ピカソが本当にゲルニカを反戦・平和のために書いたのかを調べてみましたが、Wikiにはこのような記載がありました。

 

ピカソは動物たちの象徴性だけは認めたが、その他の要素については多くを語らず、また具体的な意味合いなどを説明することなく世を去った

 

ではなぜ、この絵が反戦や抵抗のシンボルになったのか?

 

 

ピカソはこの絵の解説をしたことがないのになぜ?

 

 

それはゲルニカという絵を見れば判ると言われています。

 

 

絵を見たことがない、見たことあるけど忘れた、何が書いてあるのか意味不明な人のために3Dでどうぞ

 

 

 

で、この絵をみてすべての人がピカソは反戦・平和を訴えていると思うでしょうか?

 

 

「きもい」としか思わない人も当然いるはず。

 

 

ピカソの絵はどうも好きでないという人もいるとおもいます。

 

 

でも、ピカソがゲルニカを書いたきっかけだけでなく、パリ万国博覧会のスペイン館に展示されていたゲルニカが、ヨーロッパではなくアメリカで長らく保管されたいたのか、なぜ戦後30年以上経ってからスペインに返還されたのか、史実ではないが史実を丁寧に紐解いたからこそ導き出せる原田マハさんの解釈にちょっと興味が引かれませんか?

 

 

911に始まり各地でテロが起き不安定な現在、もしかしたら平和の象徴として誰かがピカソのゲルニカを展示することで強烈なメッセージを世の中に伝えたいと企画
しようとするかもしれません。

 

 

実際に、日本を含む国や美術館が何度もゲルニカの貸与を希望したのに、なぜすべて拒否されてしまったのでしょうか?

 

 

もし、その企画が成立したら?

 

 

「暗幕のゲルニカ」にはそんなことも書かれています。

 

 

暗幕のゲルニカ感想

 

 

「暗幕のゲルニカ」にはどうやっても事実として受け入れざるを得ないことを題材にしています。

 

 

ピカソという画家が存在したこと、

 

ドラ・マールという女性がいたこと、

 

ピカソが”ゲルニカ”と人びとが呼んだ絵を書いたこと、

 

ドラ・マールが”ゲルニカ”の製作の過程を写真に収めたこと、

 

2001年9月11日ワールドトレードセンターに飛行機が衝突したことです。

 

 

さらに、もう一つ大切なこと。

 

 

ブッシュ政権時代のパウエル国務長官が国連安保理会議場のロビーで会見した時、背後にあるはずのゲルニカのタペストリーに暗幕が掛けられていたこと。

 

 

これらの事実から原田マハさんが創り出した「本当のような嘘」の物語。

 

 

実際にあった事件と、実在した人物を登場させているだけに、生半可な論理では僕たちは納得して読み進めることはできません。

 

 

 

この本は事実を元にしてはいるものの、その殆どはフィクションですが、本当にこのようなことが起こっていたのかもしれないと思っていしまう

 

 

 

その理由は、原田マハさんのインタビューにそのヒントがあります。

 

 

この作品は、物語の根幹を成す10%の史実でフレームを固め、その上に90%のフィクションを載せるスタイルを取っています。この10%を作り込むのにものすごい労力と時間を費やします。徹底的に取材するし、資料や文献も読み込む。巻末の文献リストなどほんの一部だし、詳しい話をご存じの方がいると聞けば西へ東へ駆けつける。フレームさえ強固なら、フィクションをどれだけ積み上げても必ず支えてくれる。

 

東洋経済オンライン

 

http://toyokeizai.net/articles/-/120173?page=3

 

 

確信をもって事実であると思える史実を原田マハさんなりに深掘りした結果生まれてきた物語だからです。

 

 

その深さが小説なのにノンフィクションかのような深みをもたらしている。

 

 

 

 

 

暗幕のゲルニカを読む上で歴史の知識やピカソの作品に関する知識は必要ではありません。

 

 

 

すべての小説の中で必要なことは出てくるので問題無く読み進めることができますが、最低限知っておいたほうがよいことがあります。

 

 

 

「暗幕のゲルニカ」は「楽園のカンバス」という原田マハさんのアンリ・ルソーを題材にした作品とほんんおちょっとした関わりがある作品。

 

 

楽園のカンバスの主人公の一人ティム・ブラウンがほんのすこしだけ登場します。

 

 

シリーズ物でもなんでもないので「楽園のカンバス」の内容が「暗幕のゲルニカ」に関係しているわけではありませんが、作中でほんの少しだけ「楽園のカンバス」の内容について触れている点がありますので、読んだ方はお楽しみに。

 

 

原田マハさんの芸術を題材にした小説の素晴らしい点は、その作品や時代背景をよく知らなくても、しっかりと作中で解説してくれるので、知識ゼロでも読み進められること。

 

 

もちろん、作品や時代背景について知っていたほうが小説を楽しめるので、随時出てきた作品や人物、歴史的な背景をネットで調べたほうがよいかもしれません。

 


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