小川糸さんの「ツバキ文具店」を読んだ感想。鎌倉を舞台にした代書屋を祖母から継いだ鳩子の目線で書かれた本。

 

 

小説としても面白いが鎌倉という街の持つ魅力である食や歴史などが感じられるガイドブックのようなカジュアルさも感じられる。

 

 

パソコンやスマホで簡単にSNSを通して人と繋がることができる時代に、”字”を書いてみたいと思わずにはいられなくなる。

ツバキ文具店のあらすじ

書く

 

 

ポッポちゃんこと(雨宮鳩子)が主人公であり、鎌倉という街が、そこに生きる人が、なにより彼女の祖母が彼女を優しく包んでくれていることを少しずつ感じ、過去の傷を癒やし、手紙を書くことが自分にとってどんな意味をもっているのかを見つけるという成長を描いた物語。

 

 

 

 

彼女は代筆屋だった祖母に厳しくしつけれ、6歳から字の勉強を徹底的に教え込まれていた。

 

 

 

小さい頃は祖母の言いつけをまもり頑なに字の練習を続けてきたが、多感な10代の反抗期に自分が祖母の人生を押し付けられていると感じ、祖母に反抗しグレる。

 

 

 

そして家を飛び出し、海外を放浪していたために祖母の死に目にも立ち会っていない。

 

 

 

祖母との壊れた関係という傷を抱えながら祖母の文具屋を継ぎ、代書屋として出発したばかりの鳩子は友人との関係や代筆を依頼され手紙と格闘することによってあらためて先代(祖母)との関係に思いを馳せる。

 

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ツバキ文具店の面白さ

 

この本の魅力は2つあると僕は個人的に思います。

 

 

1つめは、本の章が春夏秋冬の4つのパートに別れていること。

 

 

サクラ

 

「ツバキ文具店」は夏→秋→冬→春の順に季節が移り変わります。

 

 

鎌倉に住んでいるからこそ感じられる季節の移り変わり、鎌倉の歴史や食など街としての魅力がたくさん描かれているのですが、春が最後というのがこの本の最大のポイント。

 

 

 

なぜ春が最後なのか?

 

 

春といえば思いつくことは「別れ」と「出会い」が定番ですが・・・。

 

 

旅立ち

 

 

なぜ春が最後なのかを考えながら本をよむというのも”あり”かなと

 

 

 

 

 

 

もう1つは手紙を書いたことすらない人もいるであろう現代において、字を書くという行為のもつ意味を発見できる可能性。

 

 

 

 

 

鳩子は依頼された手紙を書くことや、隣人との触れ合いを通じて、祖母への反抗からぐれて友達とも付き合わず一匹狼となってしまった過去の傷を埋めていく。

 

 

 

それは人は独りで勝手に育って、独りで生きているわけではないという当たり前だが忘れがちな事実の再発見でもある。

 

 

 

この本で描かれる代筆はただ単に依頼者が考えてきた文章を字がきれいな鳩子が代書するだけではない。

 

 

書いて欲しい大まかな内容を依頼者から聞きだし、具体的な文章はすべて鳩子が考え文章にする。

 

 

それはどんな筆記具をつかってどんな紙に書くのかだけでなく、どのような文字をどんな文体で書くのかもすべて鳩子が決める。

 

 

男性の依頼なら男性の字に、女性の依頼なら女性の字にしなければならず、20代の字と80代の字は当然異なる。

 

 

簡単にかける時もあれば、大いに悩むときもある。

 

 

彼女は書き手になりきって文章を書くというスタイルで手紙を書いていくからです。

 

てがき

 

 

この本が面白いのは彼女がどんな手紙を書いたのかが実際に掲載されていること。

 

 

萱谷恵子さんというプロの字書きが鳩子が書いた手紙を具現化してくれています。

 

 

依頼によって異なる字や文体、紙のニュアンスを表現するのは難しいが様々な手紙にこめられた依頼人の思いに鳩子がどう答えたのかを僕達も体験できる。

 

 

文字が変わればこんなに印象が変わるのか!という素朴な印象と、雑に書かれた文字と丁寧に書かれた文字の受け取る印象の違いを目の当たりにすると、メールやLINEなどのSNSで簡単に世界中の誰とでも、いつでもつながる事のできる時代に僕達が忘れようとしてる「肉筆」の持つ魅力を発見できる。

 

 

 

 

鎌倉

 

 

そしてもう一つ付け加えるとすると鎌倉の美味しそうな食べ物、雰囲気の良さそうなお店が沢山紹介され、鎌倉に行って実際に食べたくなる。

 

 

  • 鳥一のコロッケ・焼き鳥
  • 萩原精肉店のローストビーフ
  • ベルグフェルドのソーセージ
  • 釜揚げしらす
  • 松花堂のあがり羊羹

 

これらは実際鎌倉にあるお店であり、鎌倉に馴染みのあるもの。

 

巻頭には鶴岡八幡宮を中心とした文中に登場する寺院やお店の地図が掲載されていて、さながらガイドブックのようだが、そこは著者が意識した点なのだろう。

 

 

 

糸通信という著者の公式サイト2016年4/17日のごあいさつの頁に鎌倉に住んでいたことなどが明記されている。

 

 

 

家の一部をリフォームすることになり、仮住まいの場所として著者の小川糸さんが実際に鎌倉に住んだからこそ書ける鎌倉の空気感こそが、この本の最大の魅力なのかもしれない。

 


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